今週は、ある技術系企業にて社内知財研修の講師を務めさせていただきました。お忙しい中ご参加いただいた非常に大勢のエンジニアの皆様に、心から感謝を申し上げます。

会場での質疑やアンケートで頂戴したご質問やご意見に関連して、ここで追加情報をお知らせしたいと思います。

参考文献

参考文献を教えてほしい、というリクエストを頂きました。そこで、当日お話した内容に関連し、かつエンジニアの皆さんのご参考になりそうな書籍をご紹介いたします。

著作権全般に関するもの

18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)
著作権という仕組み全般について興味をお持ちの方には、まずはこちらの本をお勧めします。豊富な事例を引き合いに出しながら、著作権でできることとできないこととを考えさせてくれます。

ソフトウェアと知財権の絡みに関するもの

知って得する ソフトウェア特許・著作権 改訂六版
タイトルは特許・著作権となっていますが、商標権や意匠権についても総合的に触れられています。ソフトウェア技術者の皆さんが、自分の仕事と絡めながら知財権について一通りの理解を得られる点でとても有用な本だと思います。

知財戦略に関するもの

知的財産戦略
知財戦略とは何か、誰がどういう考え方で知財戦略を立てるべきか、共同開発や標準化を行う際の注意点など多岐にわたる論点が扱われています。著者はキヤノンで役員として知財戦略を担われた丸島儀一氏で、現場の経験に裏打ちされた提言は非常に実践的です。事例は製造業に寄ったものが多いですが、考え方はソフトウェア業界にも応用できるでしょう。

技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス
技術の利用を契約でコントロールする際の考え方が、具体的な事例に基づいて説明されています。著者は「下町ロケット」に登場する弁護士のモデルともなった鮫島正洋氏です。

オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件 増補改訂版
知財戦略を大きな視点から捉えたい方にお勧めです。互いに技術を提供しあうオープン・イノベーションが盛んなこの時代でも知財権が重要なのは何故か、事業で勝つために知財権をどう使えるかを理解できます。近年の知財戦略の基本書ともいうべき内容です。

先行技術調査について

「他社特許を踏んでいないか(抵触)」を確認するために先行技術調査をする場合、何件くらい文献を見れば十分か?というご質問を頂きました。

実際に何件の特許公報を見れば十分かは、調査対象技術の内容や、その技術分野における過去の出願状況によって様々です。ただ、当職の経験にのみ基づいて言えば、例えばコンピュータ関連分野では、1つの発明について1,000件程度見ていくと、問題となる先行技術の有無をおおよそ判断できる場合が多いような気がします。

当職の場合は、はじめに、次のような条件を”AND”で組合せて文献集合を作ります。

  • 技術分野:調査対象技術にごく近い技術分野(←特許分類を使って指定します)
  • キーワード:調査対象技術を特徴づけるキーワード OR その類義語
  • 文献の種類:特許公報
  • 出願日:現在から20年前まで

※特許分類の選び方、キーワードの指定の仕方などの具体的なノウハウについてはここでは割愛します。また機会があればお伝えしたいと思います。

この文献集合に含まれる文献数はだいたい数百件程度を上限とします。殆どの場合、致命的な先行技術は、この集合の中から見つかります。
その後、技術分野を調査対象技術の周辺範囲まで広げたり、異なる視点からキーワードを選択し直したりして、取りこぼしや補完的な先行技術を集めてゆきます。ここまでやると、だいたい1,000件程度見ることになります。

しかし、実際、エンジニアの皆様が本業の片手間に先行技術調査をするとなると、多くのリソースを費やせない場合も多いでしょう。その場合は、簡易的に、前半の調査までで留めるのもリーズナブルな選択肢かもしれません。
一方、重要プロジェクトであれば、十分な時間をかけて調査するか、特許事務所などに調査を依頼することを選択肢に入れても良いのではないかと思います。

さらなるご質問等がありましたら、お問合せページ又はEメールにてお知らせください。

弁理士 相澤 聡